青森地方裁判所鰺ケ沢支部 昭和41年(ワ)30号 判決 1967年2月27日
主文
一、別紙目録記載の土地について原告が所有権を有することを確認する。
二、被告は原告に対し別紙目録記載の土地を引渡せ。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
四、この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
一、原告訴訟代理人は主文第一ないし第三項と同旨の判決並びに第二項につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
(一) 別紙目録記載の土地(以下本件土地という)は、訴外原田繁一の所有のものであつたが、原告は右訴外人からこれを法定の手続を得て昭和四一年四月五日買受け、同年四月九日当該所有権移転登記を経由した。
(二) 被告は右訴外人の実父であるが、右土地は実質上は自己の所有であると称し、原告の所有を争い、かつ不法に妻原田タケをして耕作させてこれを占有し、原告の耕作を妨害しているのである。
(三) よつて、原告は被告に対し右土地の所有権確認並びに右土地の引渡を求める。
と述べた。
証拠(省略)
二、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び抗弁として、
(一) 原告主張の請求原因第(一)項の事実は、本件土地が訴外原田繁一の所有であることのみ認め、その余の事実は争う。
(二) 同第(二)項は被告と訴外原田繁一、同原田タケとの身分関係及び、被告が本件土地を占有し、妻原田タケをして耕作させていることのみ認めその余は争う。
(三) 本件土地をめぐる原告、訴外原田繁一、被告間の法律関係は次のとおりである。
(1) 本件土地は、もと訴外金子栄の所有であつたが、被告は大正一一年同人からこれを賃借小作し、その後、所有者は訴外金子栄から訴外長内助へ、更に訴外長内助から同坂本源作へと転々移転したが、被告はその間引続き小作して来たのである。そして、昭和二三年の農地解放の際には、自作農創設特別措置法に基き小作地として買収せられ売渡されることになつたが、その際本件土地は小作人たる被告に売渡されるべきところ、被告はその長男である訴外原田繁一名義をもつてこれを買受けることとし、同年七月二〇日同人名義をもつて売渡を受け、その代金を支払いした。
(2) そして右のとおり訴外原田繁一名義で売渡を受るについてはその際被告は訴外原田繁一と、本件土地は訴外原田繁一名義をもつて売渡を受けるが、被告夫婦存命中はこれを被告等において耕作させる、との約定をなし、以来被告において耕作しておるもので、被告において小作権を有するものである。なお、右の事情は農地委員会も承認するところであつて、農地委員会の農業台帳にも耕作者として被告の氏名が登載されている。
(3) 然るに原告は訴外原田繁一と通謀し、被告が小作権を放棄したと仮空の事実を捏造し、かつ農閑期を利用し、子供の所に遊びに行つた被告夫婦の留守をねらつて訴外原田繁一の長男原田謙蔵の住民登録を昭和四一年七月二五日新たに木造町三ツ舘になし、被告等の住民登録をこれに記載させ、訴外原田繁一と同一世帯であるかの如くなし、本件土地を自作と称して知事を欺罔し所有権移転の許可を受け買受けたのである。(なお、訴外原田繁一は本件土地の売渡を受けた昭和二三年当時も行商をなしその後は保険会社に務め、未だかつて本件土地を耕作したことがなく、かつ本件土地買受後間もなく被告と世帯を異にしている。)
従つて、右県知事の許可は当然無効のものであり、被告は行政不服審査法に基いて農林大臣に訴願中のものである。
(四) 以上のとおり、本件土地は小作地であるのに小作人以外の原告が買受け、その所有権移転の許可も虚構の事実を申立て県知事を欺罔してえたものでその効力なく右売買契約は無効である。従つて、原告は本件土地の所有権を取得していないのである。
(五) 仮に、右所有権移転に関する県知事の許可が形式的に有効であるとしても、右許可は争訟中でありその取消の可能性極めて大なるものがあり、かゝる浮動的な状態で本件土地の引渡を求めることは許されない。
(六) 又、仮に原告において有効に所有権を取得したものとしても、原告は被告が本件土地を耕作していたことを十二分に知りながらこれを取得し、かつ被告夫婦は本件土地の耕作による収入をその生活の唯一の基礎としているのに反し原告は本件土地の外に田地一八・八四二平方メートル(一町九反歩)を耕作し収益を得ており本訴請求をしなくても何等その生活に支障もないのである。従つて原告の本訴請求は権利の乱用であり失当である。
と述べた。
証拠(省略)
目録
青森県西津軽郡木造町大字三ツ舘字稲盛二番ノ一
一、田 六、三一七平方メートル
(六反三畝二一歩)
同所二番ノ二
一、田 二、〇六六平方メートル
(二反二五歩)
同所字泰五三番
一、田 四五二平方メートル
(四畝一七歩)